2018年度
大学院・学部共修「比較政治」



1. 授業の目的と概要

【授業の概要】


1 概要

 この授業では、おもに先進諸国の政治と政策を体系的に比較し、現代政治を分析する視角と日本に関する深い理解を獲得することを目指します。なぜ平等を重視する国と市場の自由を重視する国に分かれているのか? グローバル化は各国にどのような影響を与えているのか? 雇用や社会保障のあり方はどう異なるのか? 少子化が進む国とそうでない国の政策の違いは何か? すべての国で極右政党が伸張しているのか? 右派と左派という対立は先進国でどう変容しているのか? これらの問いを、政治制度、労使関係、政党システム、社会運動、リーダーシップといった政治学の分析視角を用いて検討します。

2 到達目標

(1)先進国の政治経済の基本構造を理解し、その中で日本の特徴、長所と問題点を把握すること。

(2)比較を通じて政治学の分析方法に習熟し、それらを用いて現代のトピックを分析できるようになること。

3 方法

レジュメとパワーポイントを用いた講義とディスカッションを組み合わせます。毎回の講義では、各トピックの概要をレクチャーしたうえで、あらかじめ用意した討議事項についてグループ・ディスカッションを行い、理解を深めます。

【他の授業科目との関連】

基礎科目「政治学」「政治史」「政治思想」の内容を踏まえ、諸外国の現代政治に焦点をあわせた内容とします。ただし、これらの授業を一部しか受けていなくとも理解できるよう配慮します。また「社会政策」「国際社会学」などの隣接分野とも関係があります

【授業の計画】

 第1部では、先進国の政治を大きく「レジーム」という観点から比較し、現在までの違いを検討します。第2部では、政策トピックごとに各国の違いとその背景を比較検討します。また各回ごとに政治学の概念や方法を決め、事例分析をつうじてそれらを習得できるよう配慮します。

1 比較政治学とは何か

2 戦後レジーム

3 戦後レジームの分岐(1)イギリスとスウェーデン

4 戦後レジームの分岐(2)ドイツと日本

5 戦後レジームの再編(1)1970年代から現代まで

6 戦後レジームの再編(2)イギリス

7 戦後レジームの再編(3)スウェーデンとドイツ

8 戦後レジームの再編(4)日本

9 グローバル化と格差

10 雇用政策

11 少子化と家族政策

12 排外主義と移民問題

13 現代政治の対立軸―保守とリベラルの変容。

政治学、比較政治の基礎文献をリーディング・アサインメントとして一部抜粋します。詳細は検討中ですが、下記のようなテクストの20〜30頁程度が候補となると思います。

【テキスト】

久米郁男ほか『政治学 補訂版』有斐閣、2011年
新川敏光ほか『比較政治経済学』有斐閣アルマ、2004年
粕谷祐子『比較政治学』ミネルヴァ書房、2014年
宮本太郎『福祉政治』有斐閣、2008年
待鳥聡史『代議制民主主義』中公新書、2015年
田中拓道『福祉政治史』勁草書房、2017年

【授業外の学習】

(1)あらかじめ指定したリーディング・アサインメントの読解。

(2)各トピックに関連した討議事項についての準備。授業のなかでグループ・ディスカッションを行う。

【成績評価の基準】

(1)通常点(30点)

講義のなかでグループ・ディスカッションを行い、その結果を終わりに提出すれば10点(×3回)。

(2)書評もしくはグループワーク(20点)

第6回の講義(4/27)までに書評またはグループ発表を選択する。書評は提示された書評リストのうち1冊を選び、1200字程度の書評を提出する(書き方は授業の中で説明する)。グループ発表は、希望者2〜3名でグループを組み、任意の政策について複数の国を比較し、10分程度で発表する。

(3)試験(50点)

基礎的な概念や理論の説明を5問程度と、論述を1問。あらかじめ指定したA3のメモ用紙のみ持ち込み可。

以上の合計で60点を合格の目安とし、それ以上は相対評価とする。

学期末試験は、到達目標にしたがって以下の基準で評価する。

(1)先進国の政治を取り巻く共通の環境変化を説明できるか。

(2)比較政治学の方法を用いて分析できるか。

試験後数日以内に仮成績、採点基準、講評をmanabaに公開し、成績評価について希望者と話し合う時間を設定する。できるかぎり疑問点を解消するようにしたい。

【受講生に対するメッセージ、他】

政治・経済・社会を横断する高度な内容ですが、講義とディスカッションをつうじて、一人一人が日本と世界の将来について、自分なりのビジョンを持つことができるよう努力します。


※詳しいスケジュール予定

@4月10日(火) 比較政治学とは何か
内容 授業のオリエンテーション、比較政治学のイントロダクション、問題の所在
参考文献 久米ほか『政治学』序章、建林ほか『比較政治制度論』第1章
A4月13日(金) 戦後レジーム
内容 先進国の政治のとらえ方、ブレトンウッズ体制とフォーディズム→「レジーム」という概念を理解する
アサインメント 新川ほか『比較政治経済学』第1章
参考文献 田中『福祉政治史』9-17頁、41-46頁
B4月17日(火) 戦後レジームの分岐(1)
内容 イギリスとスウェーデンの戦後レジーム、分岐の要因→労使関係とコーポラティズム、政党システムの違いを理解する
アサインメント 久米ほか『政治学』第23章
参考文献 新川ほか『比較政治経済学』第4章、田中『福祉政治史』47-55頁、75-84頁
C4月20日(金) 戦後レジームの分岐(2)
内容 ドイツと日本の戦後レジーム→日本の特徴と位置づけ
アサインメント 宮本『福祉政治』第3章
参考文献 飯尾『日本の統治構造』第3章、新川ほか『比較政治経済学』第8章、田中『福祉政治史』85-104頁
D4月24日(火) 戦後レジームの再編(1)
内容 1970年代の転換、レジーム再編の比較政治学→新制度論と「経路依存」、政党システムの再編について理解する
アサインメント 新川ほか『比較政治経済学』第9章
参考文献 新川ほか『比較政治経済学』第11章、田中『福祉政治史』109-127頁
E4月27日(金) 戦後レジームの再編(2)
内容 イギリスの新自由主義改革、第三の道→議院内閣制(ウェストミンスターモデル)の特徴を理解する
アサインメント ブレア「第三の道」
参考文献 田中『福祉政治史』143-155頁
F5月1日(火) 戦後レジームの再編(3)
内容 スウェーデン、ドイツの改革 → 政党システムの再編を理解する
アサインメント 網谷ほか『ヨーロッパのデモクラシー』2-27頁
参考文献 田中『福祉政治史』157-186頁
G5月8日(火) 戦後レジームの再編(4)
内容 日本型レジームの改革 → リーダーシップが機能する条件について理解する、学生のケース・スタディ
アサインメント 田中『福祉政治史』199-219頁
参考文献 宮本『福祉政治』第4、5章、中北『現代日本の政党デモクラシー』
H5月11日(金) グローバル化と格差
内容 グローバル化は格差を拡大させるか? → アメリカの金融主導型レジーム
アサインメント OECD『格差拡大の真実』26-30頁、34-51頁
参考文献 田中『福祉政治史』224-233頁、Jacob S. Hacker and Paul Pierson, "Winner-Take-All Politics: Public Policy, Political Organization, and the Precipitous Rise of Top Incomes in the United States", Politics and Society, 38(2): 152-204(http://www.kysq.org/docs/Hacker.pdf)
I5月15日(火) 雇用政策
内容 雇用政策をめぐる分岐、日本の対応→資本主義の多様性、ワークフェアとアクティベーションの違いを理解する
アサインメント ホールほか『資本主義の多様性』25-51頁
参考文献 田中『福祉政治史』235-250頁
J5月18日(金) 少子化と家族政策
内容 脱家族主義への政策、日本の対応→比較社会運動論の「政治的機会構造」という概念について理解する
アサインメント タロー『社会運動の力』131-154頁
参考文献 田中『福祉政治史』250-262頁
K5月22日(火) 排外主義と移民問題
内容 排外主義の違い、その要因→右派ポピュリズムについて理解する
アサインメント
L5月25日(金) 現代政治の対立軸―保守とリベラルの変容
内容
アサインメント